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93 涙門(最終章)

 

 

わたしは、瓶の中の液体を、ぐいと一息で飲み干した。

 

とても濃い。

濃い味がする。

そして、すべてが流れ込んでくる。

わたしが出会った人のすべてが流れ込んでくる。

 

涙だ。

その液体は、わたしたちが、命を賭して集めた涙だ。

 

錆び付いた鍵を開けるには、この瓶一杯の涙が必要だったのだ。

でも、既に寂れてしまったこの街には、涙すら残っていなかった。

だから、だれもこの門が再び開くことなど期待していなかった。

 

それでも、わずかの、ごくわずかの人たちに残っていた涙を少しずつ貯めていった。

わたしは、いつしか、わたしたちとなり、わたしたちは、いつしか、同じ夢を見続ける仲間となっていた。

それでも、終わってしまった。

 

わたしの、目から、涙が一粒こぼれた。やがてそれは一筋の涙となって頬を伝わった。

わたしは、出会ってきたすべての人たちのことを思い出していた。

出会ってきた人たちが流した涙のすべてを思い出していた。

涙は止まることがなかった。

あたり一面、水となった。

 

わたしのくるぶしまで、ひざまで、そして腰まで。

涙は留まることなくあふれた。

 

ぎいい。

なにかがきしむ音が聞こえてくる。

 

 

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