93 涙門(最終章)
2012年08月23日(木)
わたしは、瓶の中の液体を、ぐいと一息で飲み干した。
とても濃い。
濃い味がする。
そして、すべてが流れ込んでくる。
わたしが出会った人のすべてが流れ込んでくる。
涙だ。
その液体は、わたしたちが、命を賭して集めた涙だ。
錆び付いた鍵を開けるには、この瓶一杯の涙が必要だったのだ。
でも、既に寂れてしまったこの街には、涙すら残っていなかった。
だから、だれもこの門が再び開くことなど期待していなかった。
それでも、わずかの、ごくわずかの人たちに残っていた涙を少しずつ貯めていった。
わたしは、いつしか、わたしたちとなり、わたしたちは、いつしか、同じ夢を見続ける仲間となっていた。
それでも、終わってしまった。
わたしの、目から、涙が一粒こぼれた。やがてそれは一筋の涙となって頬を伝わった。
わたしは、出会ってきたすべての人たちのことを思い出していた。
出会ってきた人たちが流した涙のすべてを思い出していた。
涙は止まることがなかった。
あたり一面、水となった。
わたしのくるぶしまで、ひざまで、そして腰まで。
涙は留まることなくあふれた。
ぎいい。
なにかがきしむ音が聞こえてくる。