62 あじさい
2011年05月11日(水)
ぼくの好きな人はあじさいが好きでした。
雨粒を全体で受け止めているあじさいと同化するように、いつも立っていました。
そしてその手のひらには、たくさんの雨が溜まっていました。
「雨だって生きてるよね」
そうつぶやいたあなたの手の甲を、そっと手のひらで受け止めるように持ち上げました。
「どうせ降るなら、あじさいのうえに降ればいいのに」
ぼくたちは、互いに手のひらに救えるだけの雨をすくって、あじさいにかけてあげました。
それはもう世界中の雨をすべて
すくう勢いでした。
ぼくは、ぼくの好きだった人が好きだったあじさいが
いまでも、好きです。