62

62 あじさい

ぼくの好きな人はあじさいが好きでした。

雨粒を全体で受け止めているあじさいと同化するように、いつも立っていました。
そしてその手のひらには、たくさんの雨が溜まっていました。

「雨だって生きてるよね」
そうつぶやいたあなたの手の甲を、そっと手のひらで受け止めるように持ち上げました。
「どうせ降るなら、あじさいのうえに降ればいいのに」

ぼくたちは、互いに手のひらに救えるだけの雨をすくって、あじさいにかけてあげました。
それはもう世界中の雨をすべて
すくう勢いでした。

ぼくは、ぼくの好きだった人が好きだったあじさいが
いまでも、好きです。

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