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1 みずたマリン

潮の香りが今日も漂ってくる。
耳を澄ませば波の音まで聞こえてきそうだ。
遥か遠くを見渡せば山々が。
振り返ってみても山々が。
ここは、実は四方を囲まれた、いわゆる盆地なのに。
それなのに。。。

僕が父さんから「そのこと」を聞いたのは、
小学校に上がって間もない時のことだ。
僕と父さんだけの秘密だ。
その父さんも今はもういない。

だから、そのことを知っているのは僕しかもういない。

「そのこと」とは、
潮の香りの源についてだ、波の音の源についてだ。
誰に話しても信じてもらえないことだ。
だから、誰にも話さないし、
そのことは永遠に父さんとの秘密だ、

あの、水たまりこそ、その源だ。

父さん顔はいつも真剣だった。
「あれこそ、世界の海が凝縮されたものだ。
『みずたマリン』って言うくらいだからな」

父さんがいなくなった今も、変わらずに潮の香りは漂ってくる。

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